「KIRG30年のインプラント治療から見えてきた新たな展望―新世代への挑戦―」
このテーマで九州インプラント研修会(KIRG)は30周年学術講演会を行いました
香月 武(佐賀医科大学名誉教授)
2016年3月26,27日、福岡国際会議場にて、九州インプラント研究会(KIRG)30周年記念学術講演会(伊東隆利会長・熊本県開業)が開催された。30年のインプラントの臨床を検証するとともに、多岐にわたるシンポジウムやセッションが行われた。参加者は460名以上と盛況であった。
シンポジウム1―今求められるインプラント治療の医療安全とは?―
インプラント治療を行う場合、さまざまな安全を脅かす状況を熟知した上で、今一歩進んだ対策を立てる必要がある。伊東隆利会長は、対策はインプラント・アクシデントの収集から始まり、多重安全システムの構築、危険予知能力向上の訓練などであると述べた。実際、KIRGでは100時間コースの中に医療安全を重要テーマとして取り上げている。さらに、後藤昌昭氏は、医療安全に対する医療人の責務について大所高所の視点から解説した。特に大災害時に医療者の取るべき行動について、東日本大震災のビデオを通して述べた。
シンポジウム2―インプラント周囲炎の基礎と臨床を考察する―
和泉雄一氏(東京医科歯科大学教授)により、本邦初公開となるインプラント周囲炎の細菌叢と歯周病における細菌叢との違いの最新の解析結果の報告がなされた。さらに児玉利朗氏(神奈川歯科大学教授)、松井孝道氏(宮崎県開業)により、臨床的な側面から、SPTの考え方や実践的なインプラント周囲炎に対する治療法について解説がなされた。
シンポジウム3―インプラント最新技術の検証―
加来敏男氏(大分県開業)は CTデータのシミュレーションを工夫し、CAD/CAMの利用をインプラント症例の長期安定につなげていることを報告した。また西村正宏氏(鹿児島大学教授)は、今日臨床で使われている骨補填材の特性や用途など整理し、現在研究している顎骨骨髄由来間葉系細胞について報告した。飯島俊一氏(千葉県開業)は、骨幅の少ない患者や経年的骨変化に対応したインプラントを10年前から開発しており、その足跡と特徴を発表した。
シンポジウム4―25年以上経過したインプラント症例から見えてきたもの―
インプラントの20年以上経過報告は、世界的にも数えるほどしかない。KIRGは今回、ITI充実スクリュータイプを用いた25年以上経過の全症例224本を会員施設より集め、生物学的および補綴学的併発症の状況を調べた。その概要と結果について、澤瀬 隆氏(長崎大学教授)、堀川 正氏(熊本県開業)、添島義樹氏(熊本県開業)が報告を行った。さらに森永 太氏(佐賀県開業)は、20年以上経過した509名に行ったアンケート調査の結果から、長期経過の現状を考察した。
Next Generation Session
KIRGの伝統を継承する4名の新人会員が講演した。土屋嘉都彦氏(大分県開業)は、おもに上部構造作製の観点からジルコニアと口腔内合着の重要性に関して、原 俊浩氏(東京都開業)は、佐藤隆太氏(東京都開業)はショートインプラントや頚の細いインプラントの有効性に関して、森永大作氏(佐賀県開業)は上顎洞粘膜肥厚に関するCT分析に関して講演を行った。4名ともKIRGが特徴とする安心・安全の理念に基づいたフレッシュでさわやかな講演であった。
特別講演 インプラントテクノロジーの最前線を語る
Daniel Snetivy氏(スイス・Thommen Medical AG最高技術責任者・研究開発主任)が、サンドブラストと酸処理のインプラントがゴールドスタンダードであり、セラミックスはインプラント材料としては賛否両論があると論じた。
歯科技工士セッション
4名の歯科技工士が登壇した。山口能正氏(佐賀大学)は、顎顔面補綴治療に頭蓋顔面骨模型とインプラントを用いた症例を提示した。島田康司氏(大分県勤務)は、歯科技工士のハードワークへの解決法として、デジタル技術を応用した賢い働き方“Work Smart”を提唱した。土屋雅一氏(神奈川県開業)は、複数インプラント補綴ではインプラント上部構造の長期安定ためにセメント合着ではない方法を歯科医師に提案した。また、一志恒太氏(福岡歯科大学医科歯科総合病院・中央技工室)は、歯科技工士がデジタル機器と技術を利用することで、歯科医療だけでなく医科領域でも活躍できると述べた。
歯科衛生士セッション
参加者は100名を超え、会員発表では3名の歯科衛生士により、光殺菌治療の効果や院内の感染対策と環境整備、また患者さんとの信頼関係の築き方など各医院の取り組みが報告された。教育講演では、筆者(香月)がインプラント手術時の清潔操作について、ビデオや実技を交え解説し、好評のうちに講演会が終了した。
まとめ
筆者は、九州インプラント研究会に参加して25年を超える経験から、間もなく生涯使えるインプラントの時代が来ると予想するし、そのための条件もほぼ明確化できた。今後は長くなった寿命と、グローバル化した世界の変化に、人がいかに対応できるかが課題と考える。
“Ende gut, Alles gut.”―終わりよければすべてよし―(シェークスピア)は、私が講演を終えたSenetivy氏に言った言葉であるが、今回の記念講演会の最後にまさにぴったりのことばである。
※本投稿はクインテッセンス出版より転載許可をいただき、QDIに投稿したものに香月武が加筆修正を行いました。
付記―会長・伊東隆利より―
無事に記念学術講演会が終わり、その感激とともに新たな気持ちに胸を膨らませていた折、4月14日より複数回にわたる突然の大地震に見舞われ、余震と闘いながら、各会員が復旧に奮励努力しているところです。地震の中心は熊本でしたが、九州全域で余震が発生し、交通遮断などでしばらく混乱が続くと思われます。
そうしたなか、全国各地からお見舞いをいただき、会員一同大きな励みとなりました。少しずつですがライフラインの回復、救護支援活動、救急支援物資の到着など明るい話題も出てきました。皆様のご支援、励ましに改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
図1 九州インインプラント研究会、伊東隆利会長による開会の辞
図2 シンポジウム4で討論中のシンポジスト
図3 特別講演の演者Daniel Snetivy氏
図4 KIRGの会員および演者