2024年度 認定講習会第5回 報告

九州インプラント研究会第30期
早見太善  (熊本市、稲葉歯科医院)

松井孝道先生(インプラント周囲炎の予防とメンテナンス及びリカバリー)
『インプラント周囲炎は総力戦』という言葉の下、インプラント周囲炎に対する治療指針(非外科処置治療から外科的治療)の講義と症例をご提示して頂きました。非外科処置単独でも大きくインプラント周囲骨が再生する症例もあり、短期ではなく長期的な処置の継続で改善する余地があることを認識しました。加えて症例毎に先生が処置とその生体反応を詳細に記録されておられ、所見の記録の重要性を再認識し、日常のメンテナンスに反映させていきたいと思います。

田中秀樹先生(審美的インプラント補綴のガイドライン)
天然歯とインプラント周囲組織の差異を踏まえた臨床における術式のポイント(血液供給を考慮した切開のデザインとフラップ弁の扱いの重要性など)と難易度を先生の処置中の動画を通して説明頂きました。一つ一つの処置においてもエビデンスを踏まえた先生の考察と意図が豊富で、緻密な治療計画の背景を感じました。また審美領域においてアバットメントの形態付与など技工士主体になってしまいがちな処置の重要性を再認識しました。

武田孝之先生(インプラントのリスクファクター、長期観点から見えたインプラント補綴の留意点)
埋入されたインプラントの患者さんの高齢化を考えるにあたって、技術偏重主義にならず、欠損・咬合崩壊の原因を探り、また患者年齢に合わせて負担を軽減させる治療方針(埋入計画及び補綴治療)の重要性を学びました。今の超高齢社会(患者の通院できなくなる未来)を見据えた計画を臨床に反映するように精進したいと思います。

添島義樹先生(ボーンレベルインプラントの特徴と臨床)
ストローマンインプラントシステムの歴史・変遷から、ティッシュレベルインプラントと比較したボーンレベルインプラントの利点(近遠心スペースや顎堤幅の制約、GBRが必要な場合及び審美領域への適応等)について症例を通してご講義頂きました。
今回のボーンレベルインプラントの有用性を学び、なるべく付加的な処置なく、患者負担を軽減し長期的審美的性を維持できるように活用したいと思います。

永井省二先生(インプラント治療に必要な咬合の基礎知識)
複雑な各咬合理論がある中で、咬合の理論の歴史と変遷をまとめてご提示して頂いた資料は自分の中の今までの知識を大きく整理して頂きました。加えて現存する各咬合理論の共通認識をまとめてもらい、現在の求める基準を簡潔に捉えることができたと思います。
また、診査で決定された顎位の評価の重要性を先生の日々の臨床症例を通して説明して頂き、顔貌・姿勢等の全身への治療効果が得られることを認識させて頂きました。


九州インプラント研究会 第30期 第5回認定講習会
松井健太郎(宮崎、松井歯科医院)

松井孝道先生

現在世界中で問題になっているインプラント周囲炎に対する、メンテナンスおよびリカバリーについての講義をしていただきました。
AAPやEFPによるインプラント周囲炎の定義やコンセンサスといった基本的なところから始まり、インプラント周囲炎の非外科的治療・外科的治療について様々な臨床例を基に説明していただきました。
インプラント周囲炎は不可逆的な印象がありましたが、感染源の除去が行えれば外科・非外科を問わずこんなにも骨の再生が起こるのかと驚かされました。
また、根気強く非外科的アプローチを続ける姿や自院でのデータを大切にする姿勢は自分の臨床を振り返るいい機会となりました。

田中秀樹先生

審美領域におけるインプラントについて講義をしていただきました。
難症例と思われるケースを様々なテクニックを駆使してハードルを超えていく姿は圧巻でした。
特に抜歯即時埋入においては、一つのミスが致命的な結果になりうるので、軟組織および硬組織のマネジメントを含めた細かなポイントは、治療を成功に導くために必ず押さえておかなければならないと感じました。
審美領域でのインプラント埋入をまだ経験したことがない自分としてはかなりアドバンスな内容に感じてしまいましたが、しっかり復習を行い来たるべき時に備えようと思います。

武田孝之先生

長期観察から見えたインプラント補綴の留意点について講義をしていただきました。
長きにわたってインプラント臨床に真摯に向き合ってきた武田先生ならではの、教科書からは学べない示唆に富んだ講義でした。
我々初心者はえてして埋入の技術に意識を集中させがちですが、大切なのはインプラントが口腔内で長く機能し患者さんの健康に寄与することです。武田先生が強調していたのは、現在(現症)・未来(治療方針)だけでなく過去(なぜこのような口腔内になったのか)を考察することでした。それは1口腔単位だけでなく、患者の性格や生活背景まで含めてのことだと思います。これはインプラント治療に関わらず歯科治療全てにおいて言えることでしょう。
そして、徐々に患者の自立度が下がっていくこともしっかりと考慮した補綴設計をおこない、人生100年時代に備えようと思います。

添島義樹先生

ボーンレベルインプラントについての講義をしていただきました。
改めてストローマンインプラントの表面性状や構造の変遷について学ぶことができました。
インプラント周囲炎への低抵抗性から敬遠されるイメージのあったボーンレベルインプラントでしたが、適応症をしっかり見極めればティシュレベルでは実現できないことを実現できることが分かりました。
また、埋入ポジションや埋入深度についても具体的に指南をいただきましたので、ボーンレベルを用いる時は事前診査からしっかりシュミレーションを行い教わったように3次元的に正しい位置に埋入できるよう努めたいと思います。

永井省二先生

インプラントに関係する咬合・顎位に関しての講義をしていただきました。
上部構造に付与すべき咬合については、現在のコンセンサスをお示しいただき大変勉強になりました。顎位については、先生の臨床例を見させていただき患者さんが許容できる顎位は思っていたより幅がありそうな印象を受けました。顔貌写真・全身写真も顎位の診査の上で大変参考になり、顔貌写真を撮影する必要性を感じました。
また、恥ずかしながら、患者に顎位を覚えてもらうためのスプリントというものを知りませんでしたので、大変興味深く症例を拝見させていただきました。受講生からの質問も多く、関心が寄せられているのを感じました。永井先生は手技として確立されており煩雑さもないので、ぜひ臨床に取り入れてみて自分も検証してみたいと思います。


九州インプラント研究会第30期
﨑元 謙介 (鹿児島県南さつま市 﨑元歯科医院)

「インプラント周囲炎の予防とメインテナンスおよびリカバリー」松井孝道先生

インプラント周囲炎について、松井孝道先生の臨床における対応について詳細に伺うことができました。インプラントの併発症のひとつとしてインプラント周囲炎の発生割合や治療指針2024に沿った非外科的治療、外科的療法と分けた治療法について、過去の難治症例も交えながら論を進める講義でした。治療指針でも基本的にインプラント体粗面に付着したプラークの除去は困難であることや治療法は確立されていないとの明記もあることから、まず予防を中心としてあたること、起こってからどう治療にあたるかということを勉強させていただきました。ありがとうございました。

「審美的インプラント補綴のガイドライン」田中秀樹先生

インプラント補綴における審美的なテクニック、特に前歯部の審美性について注目した手技についての講義でした。多くの症例を踏まえながら臨床に重きを置いた講義内容でした。ティッシュマネジメントにおける審美性の確保や長期的に維持できるアバットメントおよび補綴物での注意点、素材における優位性やデメリット等々、80枚に迫るレジュメを用いて説明していただきました。インプラント補綴をするうえで審美性は必ず術者・患者ともに注目するポイントですので、ひとつでも自身の手技に取り入れたいと感じさせられる講義でした。ありがとうございました。

ケースプレゼンテーション 武井優介先生

KIRG30期生の中から武井先生が臨床症例発表を行いました。口腔内および顔貌写真、X線10枚法、セファロ分析、CT等の丁寧な資料採得してあり、術前術後の経過がわかりやすい症例でした。ケースプレゼンテーションを意識した形式で、内容についてKIRGメンバーの先生方から咬合位や顔貌分析など様々な視点から指導を受けていました。指導内容を聞きながらKIRGの先生方はこのような視点から考えているのかと学ぶことができました。改めて口腔インプラント治療指針2024を読み直しながら各視点についてより深く学習しようと思います。ありがとうございました。

「改めて、インプラント補綴を考える」武田孝之先生

インプラントを含めた補綴加療後における口腔内状況とライフステージに合わせた今後の患者毎における展望について、具体的な症例画像を交えてある講義でした。QOLだけでなくQODにも焦点を当てて、日本の平均健康年齢等のデータも提示しながらどのような治療を選択するのかと考えさせられる内容でした。自身でも訪問診療や終末期緩和口腔ケア医療に関わることがしばしばあるので、その際には積極的加療を行うというよりは自分の中ではなるべく痛みがない状態を維持するという目標で関わるよう心掛けています。ただそれをより広い範囲で、診療室でどう選択するのか考えるきっかけをいただけました。ありがとうございました。

「ボーンレベルインプラントの特徴と臨床」添島義樹先生

ティッシュレベルおよびボーンレベルインプラントの違いをインプラント体の詳細な形態について比較をし、臨床例も含めつつ特にボーンレベルインプラントについて学ぶことができた講義でした。プラットフォームシフティングについての理論および手技的に求められるポイント、インプラント体の幅が小さい利点から前歯部において選択肢が多く有利である点などが印象的でした。ティッシュレベルおよびボーンレベルインプラントの選択や考え方について重要な基礎およびそれに基づいた臨床での留意点について学ぶことができました。ありがとうございました。

「インプラント治療に必要な咬合の基礎知識」永井省二先生

インプラント治療も含めた咬合理論について咬合理論の歴史から紐解く説明や、実際の口腔崩壊症例から回復した臨床例、姿勢や顎位にも注目した永井先生の診療の進め方についての内容が印象に残った講義でした。様々な咬合論が飛び交う今日ですが、咬合理論の歴史から歯科においてどのように展開してきたのかわかりやすかったです。立位・姿勢レベルに着目した臨床診査についても学ぶことができ、とても勉強になりました。ありがとうございました。

真剣な眼差しで聴く受講生

松井孝道先生の熱い熱い講義

飛び交う質疑応答

田中秀樹先生の大胆な臨床の講義

飛び交う質疑応答

勇気を出してケースプレゼンテーションに挑んだ武井優介先生

KIRG正会員からの鋭い指摘、あたたかい励まし

武田孝之先生のWEB講義

飛び交う質疑応答

BL,TLの違いについて添島義樹先生

永井省二先生、受講生の質問を前もって調べた上での咬合の講義、見事!!

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